金は長年にわたり、安全資産として多くの投資家に支持されてきました。特に、インフレヘッジやリスク回避資産としての役割が注目され、経済不安や市場の変動が激しい時期には、金の需要が高まる傾向にあります。
日本においても、金ETFを通じて手軽に金へ投資することが可能です。しかし、金価格は様々な要因によって変動するため、「どのタイミングで購入すればよいのか?」と悩む方も多いでしょう。
本記事では、日本で購入可能な金ETFの種類を紹介し、金価格の変動要因を踏まえながら、賢い購入タイミングの考え方について詳しく解説します。
日本で購入できる金ETF
日本の証券市場で取引可能な金ETFには、以下のような銘柄があります。
- SPDRゴールド・シェア(1326)
- 純金上場信託(金の果実)(1540)
- 純金信託(1542)
- iシェアーズ・ゴールドインデックス・ファンド(1683)
- 金価格連動型上場投資信託(GLD)(海外ETF)
これらのETFは、金価格に連動するように設計されており、証券会社を通じて株式と同じように取引できます。
金の価格が動く要因
金価格はさまざまな経済的・政治的要因によって変動します。以下に代表的な要因を詳しく解説します。
- 米国の金利動向:
金は無配当資産のため、国債などの利回りが上昇すると、投資家はリターンを期待できる債券を選好し、金の魅力が低下します。特に米国の政策金利は、世界の金融市場に大きな影響を与えるため、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げや利下げの発表は、金価格の変動要因として重要です。一般的に、金利が下がる局面では金の価格が上昇し、逆に金利が上がる局面では金価格が下落しやすくなります。
- 為替相場(円相場の変動):
日本円建ての金価格は、ドル円の為替レートの影響を受けます。例えば、円安が進行すると、円建ての金価格は上昇する傾向があります。これは、円の価値が低下すると、日本国内でのドル建て資産(例えば金)の相対的な価格が上昇するためです。一方、円高が進むと、金の価格は下落する可能性があります。
- インフレ率の上昇:
インフレが進行すると、通貨の購買力が低下し、実物資産である金が見直される傾向があります。特に、中央銀行の金融緩和政策により市場に供給される資金が増えると、インフレ懸念から金への資金流入が増加します。過去の歴史を見ても、高インフレ時代には金価格が上昇しやすい傾向があります。
- 地政学リスクと経済不安:
戦争やテロ、金融危機などの不安定な状況では、安全資産としての金の需要が高まります。例えば、2020年の新型コロナウイルス感染拡大や、ウクライナ情勢の緊迫化により、金価格が急騰した事例があります。特に、株式市場が急落する際にはリスク回避の動きが強まり、金への資金流入が加速する傾向があります。
- 中央銀行の金準備政策:
各国の中央銀行は、外貨準備の一環として金を保有しており、その購入・売却が金価格に影響を与えます。特に、新興国の中央銀行が積極的に金を購入する動きが見られる場合、金価格は上昇しやすくなります。一方、中央銀行が金を売却する場合は、需給バランスの変化によって価格が下落する可能性があります。
- 供給要因(採掘・リサイクル):
金の供給量は新たな採掘とリサイクルによって決まります。新規採掘量が減少したり、鉱山の操業コストが上昇したりすると、金の供給量が減り、価格上昇の要因となります。また、リサイクル市場においても、金の回収量が増えれば供給が増え、価格の抑制要因となります。
このように、金価格は多くの要因によって変動するため、投資を考える際にはこれらの要素を総合的に分析することが重要です。
なぜ金は安全資産なのか?
金は世界中で「安全資産」として認識されており、多くの投資家が不況時や市場の不安定な時期に金を購入します。その理由を初心者にも分かりやすく説明します。
- 価値が変わりにくい:
金は歴史的に価値を維持してきた資産です。他の金融資産(株式や債券)とは異なり、企業業績や経済状況に大きく左右されません。Baur and McDermott(2010)の研究では、金は金融危機時に「グローバルなセーフヘイブン(安全避難資産)」として機能することが示されています1。
- インフレに強い:
物価が上昇するとお金の価値が下がりますが、金はその影響を受けにくい資産です。Beckmann and Czudaj(2013)の研究によると、金は長期的にインフレに対するヘッジ効果を持つことが統計的に確認されています2。
- 金融市場の混乱時に強い:
リーマン・ショック(2008年)や新型コロナウイルスのパンデミック(2020年)などの金融危機が発生した際、株式市場は急落しましたが、金価格は上昇しました。Ciner, Gurdgiev, and Lucey(2013)の研究では、金は市場のボラティリティが高まるとリスク回避の手段として機能することが示唆されています3。
- 中央銀行が金を保有している:
世界中の中央銀行は金を外貨準備の一部として保有しており、その価値を認めています。特に、新興国の中央銀行が積極的に金を購入する動きが見られると、金価格が上昇しやすくなります。
このように、金は歴史的に見ても長期的に価値を維持する資産であり、市場が不安定なときには特に重要な役割を果たします。これから投資を考えている方は、資産の一部を金に分散させることで、リスクを抑えることができるかもしれません。
金ETFの購入タイミング
金ETFの購入タイミングは、投資の目的や市場の状況によって異なります。ここでは、長期投資と短期投資の両方の視点から、より詳しく購入のタイミングについて解説します。
(1) 長期投資を前提とする場合
金は長期的な資産防衛手段として有効なため、コツコツと積み立てる「ドルコスト平均法」を活用すると、価格変動リスクを抑えながら安定的に資産を増やせます。ドルコスト平均法では、定期的に一定額を投資することで、高値掴みのリスクを軽減できます。
また、過去のデータをもとに、金価格が比較的低いタイミング(例えば、株式市場が強気相場で投資家の関心が株式に向かっている時期)を狙って、まとめて購入するのも一つの方法です。
(2) 短期売買を狙う場合
短期的な値動きを狙う場合、以下のようなタイミングを意識すると良いでしょう。
- 米国の利下げが予測されるとき:
FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを示唆した場合、金の相対的な魅力が増し、価格が上昇する傾向があります。特に、インフレ懸念が強まる局面では、金への資金流入が増えることが多くなります。Baur(2012)の研究では、金価格と実質金利の関係が強く、低金利環境では金価格が上昇しやすいことが指摘されています4。
- 円安が進行しているとき:
日本円建ての金価格は、為替レートの影響を受けます。円安が進行すると、円の価値が下がるため、金価格が上昇しやすくなります。特に、日銀の金融緩和政策が強まる局面では、円安による金価格上昇が期待できます。
- 株式市場が不安定なとき:
株価が急落する局面では、投資家がリスク回避のために金を購入する傾向があります。過去の市場暴落時(例えば、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショック)には、金価格が急上昇した事例が多数あります。
このように、金ETFの購入タイミングを見極めるには、学術的な研究や過去のデータを活用しながら、現在の市場環境を考慮することが重要です。
金ETFの購入タイミングは、投資の目的や市場の状況によって異なります。ここでは、長期投資と短期投資の両方の視点から、より詳しく購入のタイミングについて解説します。
(3) テクニカル分析を活用する
短期売買を狙う場合、テクニカル分析を活用することで、より精度の高い売買タイミングを見極めることができます。以下の指標を参考にすると良いでしょう。
- 移動平均線(SMA、EMA):
短期移動平均線(SMA10、EMA20など)が長期移動平均線(SMA50、EMA100など)を上抜ける「ゴールデンクロス」が発生したときは買いシグナル、逆に下抜ける「デッドクロス」が発生したときは売りシグナルとなることが多いです。
- ボリンジャーバンド:
価格がボリンジャーバンドの下限に達した際は反発しやすく、上限に達した際は調整しやすい傾向があります。過去のトレンドと組み合わせて判断すると、より精度の高いエントリーポイントが見つかります。
- RSI(相対力指数):
RSIが30以下になると売られすぎ、70以上になると買われすぎと判断されるため、これを参考に押し目買いや天井売りのタイミングを考えることができます。
(4) 過去のデータを活用する
過去の金価格の推移を分析し、一定の周期やパターンを見つけることで、最適な購入タイミングを判断できます。特に、以下のポイントに注目すると良いでしょう。
- 季節性:
歴史的に見ると、金価格は年初に上昇しやすく、夏場に調整しやすい傾向があります。
- 市場イベント:
FRBの金融政策発表、雇用統計の発表、地政学的リスクの高まりなどが金価格に大きな影響を与えることがあるため、これらのイベント前後で価格の動向を確認することが重要です。
まとめ
金ETFの購入タイミングは、投資目的や市場環境によって異なります。長期投資ではドルコスト平均法を活用し、安定的に資産を増やす戦略が有効です。一方、短期投資では、米国の金融政策や円相場の動向を注視し、テクニカル分析を活用しながら売買のタイミングを見極めることが重要です。
リスクを抑えつつ、効果的に金ETFを活用するために、自身の投資スタイルに合った手法を選びましょう。
参考文献
- Baur, Dirk G., and Brian M. Lucey. “Is Gold a Hedge or a Safe Haven? An Analysis of Stocks, Bonds and Gold.” Financial Review, vol. 45, no. 2, 2010, pp. 217-229. https://doi.org/10.1111/j.1540-6288.2010.00244.x ↩︎
- Beckmann, Joscha, and Robert Czudaj. “Gold as an Inflation Hedge in a Time-Varying Coefficient Framework.” North American Journal of Economics and Finance, vol. 24, 2013, pp. 208-222.https://doi.org/10.1016/j.najef.2012.10.007 ↩︎
- Ciner, Cetin, Conor Gurdgiev, and Brian M. Lucey. “Hedges and Safe Havens – An Examination of Stocks, Bonds, Gold, Oil and Exchange Rates.” International Review of Financial Analysis, vol. 29, 2013, pp. 202-211.https://doi.org/10.1016/j.irfa.2012.12.001 ↩︎
- Baur, Dirk G., and Brian M. Lucey. “Is Gold a Hedge or a Safe Haven? An Analysis of Stocks, Bonds and Gold.” Financial Review, vol. 45, no. 2, 2010, pp. 217-229. https://doi.org/10.1111/j.1540-6288.2010.00244.x ↩︎
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